その後の話を少しすると、高校進学後も俺は緊張した毎日をおくりました。
スポンサードリンク
俺の成績では、かなり荒れた学校にしか行けなかったんです。
どうなるんだろうと思いましたが、荒れてる奴同士が相当モメてて余裕がなかったかららしく、結果的に一般の生徒に手を出してくることは少なかったですね。
とはいえ、いくら手を出してこないとは言っても荒れている環境なのは変わりませんから、楽しい日常とは言い難かったです。
結局、高校卒業してすぐに、俺は地元を離れました。
中高時代の連中とは会いたくなかったんですし、この6年間で地元への未練はすっかり失せていたんです。
わざわざ就職先を遠方にしただけの甲斐はあって、はじめて実家を離れた時は新鮮でした。
家族に何も言われないのはもちろんですけど、なによりそれまで学校で散々見てきた、うんざりする場面に出くわすことがないわけですから。
男ばかりのむさくるしい職場で、仕事もすごくキツかったんですが、それでも毎日は楽しかったですね。
同僚や先輩に揉まれているうちに、昔が嘘のように性格も変わっていきました。
そういう毎日を送っていると、あっというまに時が過ぎてしまって、地元のことはあまり思い出すことはありませんでした。
唯一、たまに思い出すのは、U実のことでした。
大した接触があったわけではありませんでしたが、あの夕暮れ時のわずかなひと時が、俺の頭の中に残り続けていたんです。
あのあと彼女はどうなったんだろう。
そう思いましたが、連絡先さえ知らない俺にはなすすべもありませんでした。
それで、ようやくはじめての帰省をしたのが先日のことです。
実家を離れてから、2年半が過ぎていました。
親はあまり変わっていませんでしたが、街並みはかなりの変貌ぶりでした。
たった2年半なのに、そこは地方都市の悲しさで、駅前でさえシャッターを下ろしている店がかなり目立ちます。
そんな街ですから、帰っては来たものの、さしてやることはありませんでした。
親の手伝いをしたりしてのんびり過ごすのは、悪い気分ではありませんでしたが、だからといって面白いわけでもありません。
そして、いよいよ暇を持て余した3日目の夕方のこと。
俺は、ふと気が向いて飲み屋街に出かけてみようと思い立ったんです。
どうせ暇なんだし、地元に一軒くらい行きつけを見つけておいてもいいかもしれない、と一応理由をつけたものの、ただの気まぐれでした。
日の暮れかけた町を歩いていきます。
寂れるとまではいきませんが、それにしても活気のない街並みです。
飲み屋街まではまだ距離がありますが、それを差っ引いても、人通りが少なすぎます。
もう、俺の世代もこの辺りにはあまり残っていないのかもなあ、と思いながらとぼとぼ歩いていると、前から女性が一人歩いてきました。
ほっそりとした美人で、仕事帰りでしょうか、スーツ姿がきりっとした印象を引き立てていました。
あんな美人がいたら、うちの職場ももうちょっと華やかだろうなあ。
そう思っていると、思いがけず彼女が声をかけてきたんです。
「あれ、T野?」
はっきりと聞き覚えのある声。
髪の色が変わっている上にメイクでよくわかりませんでしたが、切れ長の目にも面影があります。
逆光をあびた、影法師のような姿を凝視しながら、俺は中学時代の、あの日の教室での出来事をふと思い返していました。
スポンサードリンク
「さ、入って」
「いいの?…お、…お邪魔しまーす」
何気にほとんど話したことがないのでわかりませんでしたが、U実は無茶苦茶押しが強かったです。
飲み屋にいくはずが、じゃあどうせならうちで飲もうという話になり、あっさりと俺はU実の家に上がり込むことになったんです。
彼女の部屋は、意外なことに俺の家のすぐ近くのマンションでした。
考えてみれば、校区が同じだった以上そんなに遠くに住んでいるわけもないんですが。
最初は恐る恐るでした。
俺個人の印象はともかく、当時あれだけ悪名高かった相手です。
正直に言うと、怖かったのです。
が、いざ、飲み始めてみると、そんな考えはどこかに行ってしまいました。
時々口が悪くなることはあっても、反応自体はいたって普通の女の子だったんです。
どこかの機会に落ち着いたんでしょうか。
俺も気が付くと、普通に軽口をたたいていました。
まさかこんな形で、彼女と飲めるとは思わなかった。
「でもさあ、都会は違うでしょ、こっちと。厳しいんじゃない?」
「厳しいは厳しいけどね。でも求人は多いし、ある意味ではやりやすい」
「あー、確かにそれはあるかも。こっち、マジで求人ないからねえ」
「今の会社はいい感じ?」
「うん、親のツテだから、結構めんどくさい部分もあるけどね」
「ああ、それはあるかも」
「あるのよーそれが色々…でもさあ、あんたも明るくなったよね」
ふと、話題が飛びました。
「おかげさまで」
「あのころはヤバいかもってくらい暗くなってたもんね」
「ああ、確かにそうだった」
思い出すと、自分でも正直キツイものがありました。
「まあ、色々言う資格はないんだけどさ。あたしは何もしなかったわけだし」
彼女の顔が、ふと陰りました。
「そうでもないよ。目くばせとかしてくれてたじゃん」
「あー、そんなこともしてたな…だけどそれがどうかした?」
「あれが理由かはわかんないけど、あのあたりからだいぶマシになったんだよ。連中」
「あー…あたしにビビったのかなあ」
彼女が今度はゲンナリした顔をしました。
まずい。地雷を踏んだかな。
俺は慌てていい直しました。
「あ、でも俺はありがたかったんだよ、マジで!本当に!」
「はあ…そんなに必死になんなくていいよ。あたしとしては微妙だけど…」
「…あー、…まずいことだったら、ゴメン」
「いいよ。そういう効果があったなら、グレてた甲斐もあるってもんだし…」
彼女は無理に笑った顔をしました。
多分、彼女にとっても、あのころのことはあまりいい思い出ではないんでしょう。
まずったなあ。これは話題に気を付けないと。
そう思ったのですが、彼女の方から話し始めました。
「はあ…我ながら、あのころはやり過ぎたなあ」
「え、でも、俺らからすれば何もされてないし」
「まあ、そういうのはあたし好きじゃなかったし。でも、それ以外はひどいもんだよ」
「ああ、まあ、その辺の事情はわからないけど」
「あたしも言いたくないって。…でさあ、あれだけやらかしちゃうとね、地元だと尾を引くのよ」
「尾を引く?」
「やっぱねえ、…どこまで行っても、取り扱い注意な人になっちゃうのよ。…なまじ顔、売れちゃったからさ」
「ああ…」
どういっていいかわかりません。
「ま、自業自得なんだけどね。ただ、あたし、昔から人とつるんでなかったじゃない」
「そうだったね」
「そうなのよ。でさあ、こうなるとね、相手してくれる人がなかなかいないのよ」
きまずい沈黙が流れました。
ふたりして、グビグビとコップの酒を飲み、空になったコップに次の一杯を注ぎます。
「寂しいんだよね。単純に、こういうの」
「…」
「…だからね。今日無理に誘ったのも、それが理由」
「…相手になってる?」
「十分。ていうか、仕事以外の事話すの、ホント久しぶりなのよ」
ニコッと、彼女は笑いました。
だけど、少し痛々しいのは否めません。
ふたたび、沈黙が訪れました。
「ねえ」
やがて、静かにU実が言いました。
「頼みがあるんだけど」
「何?」
たっぷり一拍、間を置いたあと、U実は思い切ったように言葉を吐き出しました。
「一晩、付き合ってくれない?」
スポンサードリンク
カテゴリ:エロ体験談その他(男性視点)