まずい、知り合い!?
我に返ったわたしは、あわてて本を小脇に隠しながら振り返ります。
こんなの読んでるのが知り合いにバレたら、と思うと、恥ずかしくてどうしようもなかったんです。
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でも、そこにはまったく見覚えのない男の人が立っていました。
誰だろう。
どうみても、面識はないはずです。
やせぎすの、見たところかなり優男。どことなく軽そうな雰囲気です。
「夢中になって読んでるからさ、声かけにくかったんだけどな」
「…どなたですか?」
「あー、名乗るほどのもんじゃないけど。遊びでもどうって思ってさ」
これがナンパというものなんでしょうか。
まさかこんなところで、そういうことがあるなんて思ってもみませんでした。
それ以上に、わたしに声をかけてくるなんて。
はじめての経験でした。
ただ、残念ながら、ナンパにいい印象はありません。
「わ、わたし、そんなに軽く見えます?」
わたしはつっけんどんにそう答えたんですが、彼はあっさりといいました。
「…ああ、気い悪くしないでくれ。ま、軽いって感じじゃないな」
「じゃあ、なんで」
「いや、そんな本読んでるからさ。欲求不満なんかなと思ってさ」
完全にバレてる。
知り合いでもなんでもない相手とはいえ、顔から火がでそうでした。
でも、真っ赤になったわたしに構わず、彼は続けました。
「なんだ、そうやってるとあんた結構かわいいじゃんか」
「な?」
「素直にしてるとかわいいって言ったんだよ。どう?真面目ぶってないで、たまには遊んでみるのもいいんじゃないか?」
歯の浮くようなセリフです。
おおかた、相手を見つけられなかったナンパ男が、たまたまHのマニュアルを読みふけっているわたしを見かけて、これならいけるとおもったんでしょうか。
というか、多分そうなんでしょう。
女としては屈辱以外の何物でもありません。
でも、実をいうと、わたしはその時既に、この男の人の術中にハマっていました。
街を歩いていても声を掛けられたことさえないわたしは、こうした褒め言葉にまったく免疫がなかったんです。
あっけにとられながらも新鮮な、ぽーっとするような気分でした。
それに、見ず知らずのその男の人は、割とわたしからみて好みだったんです。
瞬時に頭の中に、ずっと思い描いてきた妄想が広がりました。
男の人に抱かれ、脚を開かれて、そして大きくなった男の人のアレがわたしの中にはいってくる。
それが、以前とは比べ物にならないくらいの現実味を帯びて、わたしの心を満たしたんです。
ほうっ、と、夢でもみるかのように、わたしはうっとりとしてしまいました。
相手の素性さえわからないっていうのに。
そんなわたしの反応は、ナンパしてきた彼からしても予想外だったようです。
「…どうかしたのか?あんた、なんか遠い目になってるぞ…?」
口調からして、多分彼は引き気味になっていたんだと思います。
慌ててわたしは返事をしました。
「い、いえ!あの、その、なんでもないです!」
ボリュームまで気にする余裕はありませんでした。
本屋さんの広い店内に響き渡る、わたしの裏返った声。
口から飛び出した自分の声はあんまりにも大きくて、わたしは自分でびっくりしました。
彼も慌てたのでしょう。
「お、おい!なにもそこまででかい声出さなくても…」
「あ、ごめんなさい…」
そう言っている間に、店員さんや他のお客さんが、何が起こったかとこわごわこちらを見ています。
声をかけては来ませんでしたが、怪しんでいることは見え見えです。
「あ、大声だしちゃってすみませーん。なんでもないです」
とにかく、場を収めないと。
そう思って、わたしは集まってきた人たちにむかって声を張り上げました。
さすがに女のわたしがそういうと、店員さんたちも納得したみたいです。
あっけなく引き上げていきました。
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「あ、焦ったわあ…」
「…ごめんなさい」
今度は声を抑えてそう言うと、彼はふう、と額の汗をぬぐいました。
多分ナンパ慣れしているであろう彼がそんな風になるなんて、よほど驚いたのでしょう。
「…なんていうかさ、あんた、慣れてないな」
「は、はい…」
「まあ、いいんだけどよ…で、どうする?付き合ってくれんの?」
ナンパについていくということのリスクは、もちろんわたしもわかっていました。
質の悪い相手だったら、どういう目に合うかわかったものじゃない。
でも…これを逃したら、もうこんな機会はないかもしれない。
わたしが男の人に抱かれることなんて、次にあるとは限らない。
そう思ったら、断るという選択肢はありませんでした。
「は、はいっ…」
「そんならいいんだけどさ、じゃ、いくか?」
「は、はい…」
わたしは彼の見立て通り慣れていませんから、鸚鵡返しの返事をただ繰り返すばかりでした。
男の人に連れられて、本屋を出ました。
ショッピングモールの中には、相変わらずカップルや夫婦がいっぱいです。
休日のひとときを満喫していると言った感じ。
そんな中で、わたしは何をしているんだろう。
H目的なのはわかってるのに、そんなナンパ男についていってる。
それはわかっていましたが、それでもわたしは夢見心地なままでした。
妄想をため込んだ期間が長すぎたんでしょう。ようやく心の中で思い続けてきたことが叶うと思うと、冷めることもありませんでした。
「なんか食べるか?甘い物とか。好きな物あるなら奢るけど」
「い、いえ、大丈夫です…」
「そうか、まあ、別にいいんだけどさ」
「は、はあ…」
ぎこちないやり取りでした。
そもそも、わたしは男の人に慣れていないんですから、流暢に話すなんて無理でした。
でも、その時間は楽しかったです。
本当にデートでもしているみたいでした。
だから、次第にすれ違うカップルたちのことも、意識から消えていきました。
ふと、目の前に下着屋さんが見えました。
あ、と思いました。
まさかこんなことになるなんて思っていませんでしたから、それほど凝った下着というわけではありません。
以前本で読んだところでは、男の人はやっぱり色っぽい下着の方が興奮してくれるといいます。
それに、わたし自身、はじめてをそんな冴えない形で迎えたくありませんでした。
「あ、あの、ちょっと…」
「ん、どうした?」
「ちょっと、買い物があって…」
「何よ?」
「…」
わたしはまた真っ赤になりました。
下着を買うなんて、男の人の前でいうのは恥ずかし過ぎたんです。
でも幸い、彼は察してくれたようでした。
「あー、ま、何買うのか知らないけどよ、俺、ここで待ってるから買ってこいよ」
「は、はい…」
わたしが逃げないという確信があったのかもしれません。
彼はあっさりと、わたしを一旦開放してくれました。
そして、下着屋さんとは逆の方向に目線をやります。
気づいているだろうとはわたしにもわかりましたが、その好意に甘えて、わたしは下着屋さんに脚を踏み入れました。
それまで使ったことのないブランドのショップでしたが、幸いかわいい下着はたくさんありました。
わたしはその中から、黒の、できるだけ色っぽく見えそうなものを一枚選びました。
これなら、自分でも納得できそうです。
わたしの挙動は既に不審でしたから、店員さんもなんだこいつって思ったかもしれませんけど、そんなことを気にする余裕はありませんでした。
下着屋さんからでて、彼に声をかける前にトイレに飛び込み、個室で下着を履き替えました。
改めて下半身を見下ろすと、これまで買ったこともないような下着に包まれたわたしの身体。
どうだろう。
彼から見て、すこしは色っぽくなっているだろうか。
少し心配でしたが、もう気にしても仕方がありません。
スカートを元に戻して、わたしは個室をでました。
トイレをでて、男の人のところへ向かいます。
もういなくなっていたらどうしようとさえ思いましたが、彼はあたりをちらちらと見渡しながらのんびりと待っていました。
一歩ずつ、彼に近づいていきながら、わたしはこれから自分の妄想が現実になるんだ、という事実をひしひしと実感せずにはいられませんでした。
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