私には彼女が一人いる。
いた、と言った方が正確かもしれない。
一応まだ付き合っているという事にはなっているが、形だけだからだ。
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彼女、U子と付き合いだしたのは、入学後間もないころのことだ。
小柄だけれどスタイルのいいU子は、いかにも都会の女子大生という感じで、田舎から出てきたばかりの私は完全にハマっていた。
いけるものならこのまま卒業して、結婚までいきたいと思ったくらいだった。
すこし小悪魔的なところもあったけれど、快活な性格なU子と付き合うのは、楽しくて仕方がなかった。
それが、いつの間におかしくなってしまったんだろう。
風向きが変わり始めたのは、付き合い始めて2年ほどたったころだった。
就職活動が目前に迫り、私たちはお互い忙しくなり、なかなか会えない日が増えていた。
U子はどこかのセミナーに通っていたし、私も業界研究などにバタバタだった。
そんな調子だったから、たまに誘ってみても、予定があわずに断られることが多くなっていた。
とはいえ、私は就活さえ終わればまたU子と楽しい毎日が送れるものだと信じていた。
結果的には、そう思ったのがそもそもの間違いだったのだが。
その日、私は一人、地下の非常階段の地下3階部分、一番下にいた。
うちの学校は歴史が古く、校舎も増改築を繰り返したせいか、何のためにあるのかわからない構造になっている箇所が結構点在している。
トマソンという奴だ。
この非常階段もその一つで、校舎の2階から下に、地下3階に相当する深さまで伸びているのだが、1階まではさておき、地下部分は無駄以外の何物でもなかった。
昔はどん詰まりの部分に小さな倉庫があったらしいが、使われなくなったときにデッドスペースとして埋めてしまったようで、いまではただ漆喰の壁がそびえるだけだ。
では1階と2階部分は意味があるかというと、校舎の構造上、非常階段は教室からも極端に離れていて、あまりにも使いづらかった。
第一、仮にこの辺りでフロアを移動するにしても、何もここを使うまでもないのだ。
少し離れた位置には普通の階段があるのだから。
だから、このスペースに入ってくる人間はほとんどいなかった。
何より、職員の目が届かないせいか、名目上ではあったが学生は使用禁止ということになっていた。
そんなほぼ意味をなさない非常階段だったのだが、人が来ないだけにぼーっとするにはまたとない空間だった。
異様な雰囲気ではあったけれど、逆にここを自分だけのリラクゼーションスポットと考えるごく一部の人間も存在したのだ。
私もその一人だった。
1年の終わりごろにたまたま発見してから、たまに考え事をしたくなると、ふらりと立ち寄っては、小一時間ほどぼんやりと考え事をするのが定番だった。
そうすると、不思議に悩みが晴れてくるのだ。
そのときも、私は階段の一番下の段にすわり、ボーっと考え事をしていた。
ネタは主に将来のこと。
さすがにテーマがテーマだ。そう簡単に答えが出るわけもなく、ウンザリするような思考を繰り返すうちに、気が付いたらいつになく時間が経っていた。
夕方に立ち寄ったはずが、気が付くともう夜の8時を回っていた。
「うゎ・・・」
こりゃ、下手すると校舎の出口を閉められかねない時間帯だ。
あわてて腰をあげようとした私の耳に上階の方から“ギィィ・・・”とドアの開く音が響いた。
誰かが非常階段のドアを開けたのだ。警備員だろうか。
これはまずい。
どん詰まりの構造上、ここから逃げるのは不可能だ。
仕方がない、おとなしくお説教を頂戴するとするか。
そう腹を決めた私の耳は、続けて男女の声を感知した。
「へえ…こんな場所あったんだ」
「でしょ。うってつけじゃない?」
「そうだな」
カップルだろうか、いかにもイチャイチャした声。
ひそひそ声だ。密会でもしに来たのだろうか。
それはそれで構わない。
それだけなら、何の問題もない。
問題なのは、女の声にあきらかに聞き覚えがあったことだ。
2年間、お互いの部屋でも、デートでも、聞きなれた声。
階段が邪魔をしてかすかなボリュームではあったけれど、聞き間違えようがなかった。
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二人分の階段を下りてくる音。
「うわ、埃っぽいなあ…」
「あなたが我慢できないからでしょ」
「まあ、そうだけどさ…」
…危うく駆け上がってやろうかと思ったが、私はなぜか、そうしなかった。
これから行われることは会話の内容だけでももう見当がついていたし、この状況なら現場を抑えることも簡単だろう。
腹の中に、どす黒い感情と、間違いであってくれという感情がどんどん湧いてきていた。
それなのに、私はなぜか動けなかったのだ。
私はただ、階段の最下層でみじめに身を硬くしていた。
幸いというべきなのか、一階層上の踊り場で足音は止まった。
そして。
ちゅぶぅ・・・グチュ・・・ちゅばっ・・・
一階層上から、唾液の絡み合う音が聞こえてくる。
音が途絶えた。しばらく無音が続く。
警備員が来ないのか、ふと心配になった。
そんなことを気にしている場合ではないのに。
あんまりな現実に、感覚がマヒしてしまったのかもしれない。
もう、現実逃避に近かったと思う。
こんなところまで見回りはするんだろうか、そんなことをぼんやりと考えていた。
唐突に、ジッパーを下ろす小さな音がした。
小さな音のはずなのだが、不思議なほど大きく非常階段に反響する。
それにかぶせるように、ひときわ大きく、唾液交じりの、何かをすする音がつづいた。
「んくっ…いいわぁ…やっぱ…」
「んん…ひもひいい?」
もはやセリフになってないが、いきりたったものを咥えながらだ。
それに、大体の意味は察することができた。
「ああ、気持ちいいわあ…」
ちゅばっ、じゅぷっ、じゅぶっ、じゅぷうっ…
あからさまなまでに、ペニスをすする音がする。
もう、わざと音を立てているとしか思えなかった。
私は、ただただ呆然と、ついこの間部屋でU子がフェラチオしてくれた時のことを思い出していた。
あのあとはどうしたんだっけ。たしか、お返しといってクンニしたなあ…
頭がバカになったようだった。
「う、うおっ」
ほどなく、男が小さなうめき声を上げた。
ややあって、じゅぱっというかすかな、だが、ひときわ目立つ音がした。
彼女が男のチ●ポから口を離したのだ。
流れから言って、多分彼女の口の中は、青臭い彼のザーメンでいっぱいだろう。
くぐもった、喉を鳴らす音。・・・飲んだ?
「もう…出すなら早めに言ってよ」
「嫌いじゃないだろ、飲むの」
「まあ…ね。さ、帰ろうよ。家でまた、いっぱいしよ」
「そうだな。また飲ませてやるよ」
「もう、やだぁ…いい加減やめてよ」
「そう言いながら、いっつも飲んでるじゃんか」
「ふふ、そう言われちゃうとそうだね」
かすかな衣擦れの音がした。
服を整えているらしい。
そして、階段を上がっていく音。
そして、ドアの開閉音。
鉄製のドアの重々しい音が、埃っぽい空間に反響した。
その音は、私の耳にはまるで世界が終わってしまう音のように思えた。
どれくらいたっただろうか。
私はようやく立ち上がり、よろよろと階段を上った。
幸い、校舎はまだかろうじて閉まっていなかった。
せいぜい、警備員に「さっさと帰れよ」と声を掛けられたくらいだ。
「はい…」
私は気の抜けた返事を返しながら、フラフラと校舎の外に出た。
真っ暗な、救いようのない気分だったが、相変わらず現実感はまるでなかった。
空には、この町には珍しいくらいにたくさんの星が光っていたけれど、なんの感慨もわかなかった。
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カテゴリ:知人のエロ話総合(覗き・伝聞)