実感がわいてきたのは、家に帰って風呂に入り、一晩寝て起きたあとのことだ。
地獄だった。
心がじりじりと焼かれ、削られていくような感覚は、文字通り悪夢のようだった。
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夕べはあっけにとられていたせいか、そこまでは感じなかったのだろう。
一旦落ち着いたせいか、ぶん殴られたような衝撃があった。
そして、余計に気分が悪くなってきたのだ。
だれにも会いたくなく、学校にも行きたくなかった。
間近に迫った就職活動の準備さえ、頭から掻き消えていた。
何もかも、どうでもよかった。
そのまま、私は数日を寝床の中で過ごした。
一度U子からスマホに連絡があったが、適当にごまかした。
「風邪なの?大事な時期なんだし、気を付けてね」
そう心配そうに言う彼女の声が、ひたすら白々しく聞こえた。
迫真の演技力だが、裏を知ってしまった私には何の効果もない。
誰のせいでこんなになってると思ってやがる。
そう怒鳴りそうになったが、私はなぜかここでも何も言えなかった。
今思うと、私はプライドが高すぎたのかもしれない。
自分が男として負けたことを、認めたくなかったんだろう。
そんなねじれた思考回路のせいだろうか。
数日が立ち、いい加減U子への愛情が冷めきったころ、私は自分でも不思議なのだが、ある欲求に取りつかれた。
それは、U子と新しい男の現場を、直にこの目でみてやろうという欲求だった。
誓って言うが、それまで私は、覗きというものに何の興味もなかった。
レンタルするときでも、盗撮ビデオの類はチェックしたことさえない。
そんな私が、なぜそんなことを思ってしまったんだろうか。
どうせならトドメを刺してほしい、一区切りつけたいということだったんじゃないかとか、いろいろ格好をつけた自己分析はできる。
だけど、結果だけを考えるのなら、そんないいもんじゃなかった。
なぜなら、今に至るまで私はU子と男の情事を覗きつづけているのだから。
何にしても、そのときの私は、理由はわからないなりにこの衝動をすんなりと受け入れた。
そして、U子の情事の現場を目撃すべく、事前調査を始めたのだ。
U子と間男の現場を押さえるのは、全く苦労しなかった。
というか、覗きを考えている男が言うのもなんだが、いざ調査を始めてみて、正直私は呆れた。
なにしろ、U子と間男の情事には、まったく節度というものが存在しなかったのだ。
タガが外れた、というのが一番ぴったりくる表現だろう。
一応人目は気にしているようだったが、それも最低限。
時も場所も、何一つ彼女たちは選んでいなかった。
一般的な常識に照らして言えば、論外というレベルだ。
もっとも、それは後をつけるには好都合だったが。
一応人のつてでやんわりと探りを入れたところ、男は同じ大学の学生ではあるものの、彼女とはサークルもゼミも別だった。
となると、就職活動のセミナーで知り合ったとかだろうか。
それなら、情事の場所も限られてくるかもしれない。
最初のころはそう思っていたのだが、その心配にまったく意味がないことに気づくのに時間はかからなかった。
彼女は男を、自分のサークルの部室に連れ込むことさえ躊躇していなかったのだから。
一応サークルの部室に入るときは、彼女が一人で入る。
だが、そこで誰もいないとわかると、彼女はドアから男を招き入れるのだ。
警戒心も何もない。
廊下の影から見ている私にも気づかずに、男は部室に消える。
少し間をおいてドアの前をさりげなく通り過ぎると、閉まった扉越しに、かすかではあるが吐息が聞こえてくるといった具合だ。
自分の彼女ながら、ひどいものだった。
もし、このタイミングで同じサークルの部員がやってきたら目も当てられない。
もっとも、この時期にはもうサークルは引退状態になっていることが普通だから、バレたらバレたで構わないとおもっていたのかもしれないが。
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もちろん、彼女たちの乱れっぷりはこれだけではなかった。
構内を歩いていても、ふとした拍子に建物の物陰に消えていく二人の姿を目にしたことも一度や二度ではなかった。
もちろん、物陰に近づいていくと、甘い吐息が聞こえてきたことは言うまでもない。
当然、あの非常階段を使うことも多かった。
私がたまたま居合わせたあの時で味を占めたのか。
他の場所が見つからないときには、たびたび二人で非常階段に消えていった。
そんな調子だったから、とりあえずやっている現場自体はいくらでも押さえられた。
ただ、音だけならともかく、直に二人のまぐわいを鑑賞する機会はなかなかなかった。
サークルの部室は2階だから窓から覗くわけにもいかない。
物陰は物陰で、下手に顔を出すとバレてしまう。
非常階段に至っては言わずもがなだ。
だが、もう私も意地になっていた。
これだけ頻繁にヤっているとなると、たとえ先日のことがなくても、遅かれ早かれ私は気づいていただろう。
つまり、私にバレることは織り込み済みとしか思えなかった。
バカにしやがって。
くやしさがますます私の感情を煽り、歪んだ欲求のスパイスになった。
どうしてこんなに執着しているのか、自分でもよくわからなかったが、考えるのもあほらしかった。
ここまできたら、何としても二人の現場を、この目に焼き付けてやる。
どうしようか。
いっそ盗撮用のカメラでも買いに行こうか。
そう思い始めたころ、ようやくその機会は巡ってきた。
彼女たちが新たに見つけた絶好のスポット。
それは、私にとっても絶好の覗きスポットだったのだ。
別に珍しい場所というわけではない。
研究棟の片隅にある倉庫がその場所だった。
倉庫と言ったが、そこは研究資材や使われなくなった本など、選りすぐりの「普段使わないもの」をひたすら乱雑に突っ込んだような場所で、見捨てられたような空間だった。
それこそ、あの非常階段以上に誰もやってこない部屋だ。
だからこそU子たちも安心してヤレる場所として目を付けたわけだが、この部屋は覗く側としてもすこぶる都合がよかった。
何しろ、棚という棚に物がいっぱいいっぱいに詰め込まれていて、もともと視界が悪いのだ。
少し手を加えてやるだけで、意識しなければ到底気づかない、それでいて覗きには十分な隙間を作ることができた。
あとは、私の気配に彼女たちがきづくかどうかだったが、その点は大して心配していなかった。
大体バレたところで、私の側はいくらでも正当化が可能なのだ。
それこそ、浮気現場を押さえるため、といえば十分。
立場的にまずいのは、むしろ彼女たちの方なのだから。
それを周囲に信じてもらえる程度の信用は、これまで十分に作ってきたつもりだ。
U子たちはこの部屋を見つけて以来、かなり頻繁に使っていた。
だから、適当に待っているだけでも、いずれは現場に遭遇できることは想像がついた。
覗き場所を確保した私は、それから数日、授業をサボって、棚の影に身をひそめ続けた。
一人でじっとしていると、U子との色々な思い出が、改めて頭の中をかすめていった。
何度も何度も、なんでこんなことになってしまったんだろうという嫌な感情が、胸をよぎった。
そのたびごとにその感情を押し殺して、私はひたすら二人がやってくるのを待ち続けた。
とはいっても、そう長くはかからなかった。
張り込みをはじめて3日目の午後。
窓から差し込む太陽の光をけだるく眺めていた私の耳に、かすかなドアの開く音が届いた。
そして、ききおぼえのあるひそひそ声。
「…うん、大丈夫そう」
「…よしっ」
そして、ドアの閉まる音。
考えるまでもなく、U子と間男だった。
カテゴリ:知人のエロ話総合(覗き・伝聞)