「もしかして、みてた?学生さん」
最初に視線が合ってから、たっぷり1分はたっただろうか。
いいかげん飽きたのか、女は俺をからかうように声を掛けてきた。
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「…みてたら悪い?珍しい人がいるなって思ってさ」
この頃すっかりひねくれていた俺は、返事も態度が悪かった。
もっとも、まさか正直に下着に見とれてましたなんて言えるわけもなかったが。
さいわい、女はそのことにはあまりこだわりはないようだった。
まさか気づいていないとも思えなかったが、怒っている様子はない。
「ふうん、まあいいけどね。減るもんじゃないし。何してるの?こんな時間に」
「散歩。それ以外に見える?」
「あー…あれ?ちょっとグレ気味って感じ?」
「グレてるつもりまではないけど、そんなとこ」
「ふうん…」
綺麗なだけに、かわいらしい声や口調の軽さはイメージと合わなかったが、こんなものなのかもしれない。
それに、同級生のようなフワフワした感じはしなかった。
「まあ、そんなに悪そうな感じもしないし、あたしが立ち入ることじゃないわね」
「お姉さんこそ、何してんの、こんなとこで」
「奇遇だけど、あたしも散歩よ。午後はあたしは非番なの」
「非番?」
「ああ、会ったことないし、知らないか。診療所よ、診療所」
病院なんか全く見当たらないこの村だが、集落の入口に一軒だけ、小さな診療所がある。
体力バカだった俺はそれまで全然行ったことはなかったのだけれど。
「へえ、お姉さん、医者?」
「そう。風邪ひいたら見てあげるわよ?」
「その時は頼むよ。でも、お姉さんこそさ…そのカッコ、寒くない?」
「そこまで寒くは感じないけどね…でも、ちょっと失敗したなあとは思ってる。最近来たばっかりだから、まだ慣れてないのよね」
やはり外からの人のようだ。
もっとも、言われるまでもなく、どう見てもこの辺の出の人間という感じではない。
話し方もこのあたり特有の訛りがまったくないし、間違いなく都会の出だろう。
「そんなら早めに帰った方がいいんじゃない?医者が風邪ひいちゃカッコつかないだろ」
「へえ…優しいじゃない。ちょっとクラっときちゃうなあ」
茶化したような彼女の言葉に、俺はなんとなく恥ずかしくなった
ただ、彼女としては純粋に好感を表しただけだったらしい。ふっと微笑みを浮かべた。
「まあ、心配しないで。もうちょっとゆっくりしたら帰るから。それより、もしかして今暇だったりするの?」
「まあ。暇っちゃあ暇かな」
言うまでもなく暇だったが、自分で明言するのは何となく気が進まなかった。
だからその返事は、若気の至りの格好つけに過ぎなかったのだけれど、女には都合がよかったらしい。
「ふうん。同類かあ。じゃあ、よかったらすこし話でもしない?寒くなければだけど」
ただ、会話は大して弾まなかった。
俺は散歩しかすることのないような暇人だし、会話しようにも盛り上がるような話題が何もない。思いつくのはせいぜい愚痴くらいだ。
そして、それは女――N葉さんと名乗った彼女も同じだった。
よほど話し相手に飢えていたのか、初対面にしてはかなりぶっちゃけてきたけれど、それは楽しい話題とはとても言えなかった。
それに、断片的に話してくるので事情もよくわからない。
話していて確かなのは、女が都会にいたときに何かやらかしたこと。
そして、この村に流れ着いたはいいけれど恐ろしく退屈していることくらいだった。
「でも贅沢は言えないんだけどねえ。目標の仕事だったし、この手の募集で交代要員までちゃんといる所なんてそんなにないし」
「へえ。でもさ、医者だったらいくら交代制だって、退屈なんて言ってる暇ないんじゃないの?そういうイメージなんだけど」
「そりゃね、時間的なことだけ言ったら忙しいよ?でも、退屈って、どっちかっていうと気分の問題じゃない?」
「…あー、たしかにそれ、あるかも」
「でしょ?でね。退屈なあたしは、ここでこうしてるしかないってわけ」
N葉さんの目線は、やはり海を向いている。一応笑顔を作ってはいたけれど、隣にいると、その目のうつろさが嫌でも目についた。
駐車場に並んで立つ俺たちの眼下には、荒海が飛沫を上げているだけだ。
天気はますます悪くなっていて、昼間だというのにほとんど空は真っ黒になっていた。
「こんな荒海、見てて楽しいわけ?」
「楽しいっていうわけじゃないけど、景色としては好き。まあ、他にやることないってだけなんだけどね」
俺が散歩するのと、まったく同じ理由だった。いきなり同類と呼んできただけのことはある。
そんな俺たちが二人で愚痴を延々並べ立てているわけで、どうにもすさんだ雰囲気だった。
同類相哀れむ、あるいは傷の舐め合い。そういう言葉がぴったりだった。
もっとも、その間全く楽しい要素がなかったわけでもない。
ろくでもない会話とはいえ、話している相手が相手だ。年上の美人のお姉さんというだけでも、だいぶ気分が違う。
それに、スカートのめくれ具合も相変わらずだったから、目の保養には申し分なかった。
さっきまでと違ってじろじろ見るわけにはいかなかったが、俺は時折視線を下にやらずにはいられなかった。
すぐそばにいる分、スカートの中身はほとんど見えなかったけれど、それでも裾からチラチラするスリップを楽しむには十分だったのだ。
とはいえ、これ以外に楽しい要素が思いつかない時点で、雰囲気の荒みっぷりには何の違いもなかったのだけれど。
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それでも、まともな会話自体が久しぶりだったせいか、気が付くとそれなりの時間は立っていた。
「ふーっ…割と、話しこんじゃったね」
「そうね…」
「つきあってくれてありがと。寒かったでしょ」
「N葉さんこそ」
そう言いながらも、俺の手はすっかりかじかんでいた。
すこし指を動かして感覚を取り戻そうとしていると、ふと、N葉さんはニヤリと笑った。
「でもさあ、最初っから思ってたけど…あなたってやっぱりスケベだね」
「なんだよそれ…別になんかしたわけでもないだろ」
「それはそうだけど、視線がね…見てて思ったよ。ずーっと下見てるし。ホントスカートの中に興味あるんだね」
「当たり前だろ」
「もしかして、童貞?」
「…まあ」
そっけなく言ったけれど、俺は焦っていた。さりげなく見ていたつもりだったけれど、すっかりバレてるじゃないか。
ただ、やはりN葉さんはそのことに、大して抵抗感を持っているようには見えなかった。
「当たり前ねえ…女のあたしとしては喜んでいいのやら悪いのやら」
「それは好きに取ってくれればいいけどさ。興味持つなって言われてもどうしようもないしな」
そこまで俺が言ったときだ。
ふと、N葉さんが真顔になった。
「ふうん。…じゃあ、今思いついたんだけどさ。あたしが童貞捨てさせてあげるっていったら、する?」
「…え?」
耳を疑った。ついに自分が気が狂ったかと思ったのだ。
だが、N葉さんは無表情のまま、続けた。
「なんて顔してるの?言葉通りよ。興味、あるんでしょ?」
「そ、そりゃ、そうだけど…」
「スカートの中くらいはいくらでも見れるよ?もちろん、それ以上のこともね」
N葉さんの声はまったく平熱だった。ひとかけらの感情の揺らぎさえ感じられなかった。
一方で、俺はしどろもどろだった。
もっともそれは、単に童貞と経験者の差というだけではないと思う。
そもそもN葉さんの言い分は、経験者だからどうこうという話でさえない。
「ちょ、ちょっと待てって…。そりゃ、できるもんなら、し、したいけどさ…なんでまたそういう話に…」
「退屈だから」
「…はあ?」
「退屈だから。他にすることもないし、暇つぶし。強いて言えばそんなところかな」
「…そういうもんなの?セックスってさ」
「違うと思うよ。…間違ってる。本来ならね」
「なら…」
「…そういうエッチはしたくない?」
「?」
「ロマンチックな展開とか、なきゃ嫌?あたしは別にそういうのないから。もうちょっと暇つぶしていきたいなっていう、その程度だからね」
眼鏡越しに見えるN葉さんの目は、さっきまで以上に虚ろさを増している。黒目がどこまでも真っ黒で、光が映りこんでいないようにさえ見えた。
美女ということには何のかわりもなかったけれど、それは暗い、そしてどこか薄気味のわるい美しさだった。
もっとも、だからこそのあの色気だったかもしれないが。
意識とは関係なく、強引に肉体を高まらせるほどの色気の存在を、俺はこの日、はじめて知った。
気分的にすっかり押し負けていたにも関わらず、俺の股間は、俺自身さえ意識しないうちに勃起し切っていたのだ。
「…なーんだ。下半身はすっかりその気になってるじゃない?」
彼女が俺の股間に直接手をやったとき、俺はそのことにはじめて気づいて仰天した。
まったく意識しないままに勃起したことも、痛みを感じるくらいの勃起度合いも、俺には未知の領域だったのだ。
だが、一旦勃起している事実を、事実として認識したせいだろうか。
遅ればせながら俺の脳みそは、肉体が興奮していることを認め始めた。
気分が少しずつ、さっきまでの、スカートの中をちらちら覗こうとしていたスケベな自分に戻っていく。
そうだ。本人がスカートの中はもちろん、それ以上のことをさせてくれるというのだ。
それなら、遠慮する理由は何もないじゃないか…。
「…する気に、なった?」
「あ、ああ…認めるわ。したい。でも、どこでするわけ?診療所?」
「あそこはだめ。あたしが非番なだけで、今頃、絶賛営業中よ」
「どうすんの?車でもないんでしょ?」
「あたしはどこでもいいんだけどね」
「…ちょっと、それは…」
「でしょ?だからまあ、強いて言えばあそこかなって」
N葉さんの指が、俺の背後を指し示す。
振り返るとそこには、つぶれた食堂の廃虚が、ぽっかりと暗い口を開けていた。
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カテゴリ:エロ体験談その他(男性視点)