「あんたの格好見たときにもしかしたら…って思ったけど…うん、ひどいわね」
「面目ない」
あんたの格好というのは、散歩のときの俺の服装のことだ。
自宅で浪人生をやっていると、他人の目なんて意識することは少ない。
だから、普通に部屋着のジャージのままで出歩くことも少なくなかったのだけれど、その姿はかなり世間的には問題があったらしい。
スポンサードリンク
そして、俺の姿から大体の暮らしぶりまで推測するのは難しくなかったようだ。
ひとしきり世間話をしたあと、玲美は退勤後に俺の部屋を見せろと言い出したのだ。
一瞬、両親のことが心配になった。離れとはいえ、誰かを連れて行けば、彼らが勘付く可能性は高い。
浪人生だというだけでも肩身が狭いのに、それで女の子を連れて帰ったらどういう反応をするか。
だが、少し考えてみて、大丈夫だと思った。彼らは最近は留守がちだ。日曜などはともかく、平日は一日中、しかも相当遅くならない限りはまず帰ってこない。
だからOKしたわけだけれど、俺の部屋の中の惨状は、玲美を呆れさせるに十分だったようだ。
「ズボラなのもいい加減にしなよ…まあ、今日はあたしが掃除したげるから」
「え?」
「浪人なのは別にいいと思うけど。こんな部屋にずっといたらホントにおかしくなるよ」
「あ、ああ…そうかもな」
俺は返事はしたものの、どうにも戸惑っていた。
子供の頃に彼女を招き入れたことくらいはあるけれど、恐ろしく昔のことだ。今のネクラな、人との付き合いさえ限られた俺の部屋に、女の子がいるということがどうにも実感が湧かなかった。
だが、彼女はそんなことはお構いなしだった。荷物から、エプロンを取り出す。
「さっさと片付けよ。そんなに時間はかからないでしょ」
「え、え??」
有無を言わさない勢いではあったけれど、彼女の手際は見事なものだった。
あれだけ乱雑で湿気のこもっていた部屋が、みるみるうちに片付いていく。
「この参考書すごいなあ…あたしには意味わかんないや」
「そんなに違うもんか?お前も受験したんだろ?」
「中見が違うよ。書いてあること、難し過ぎ。あたしは学校、学科だけ見て適当に選んだしね」
「そういうもんか…」
山のように積みあがった参考書の山からほこりを払いながら、彼女が言った。
ベストな参考書がどこかにないかとつまみ食いしまくっているうちに、いつの間にか溜まってしまった残骸の山。
全く手をつけないようなことはなかったけれど、一度流し見してそれっきりのものも少なくない。
「これが理解できるってだけでも、凄いと思うけどね」
「そうか…でもなあ、結果には結びついてねえんだよな」
伊達に何年も浪人をやっているわけではないから、それなりに知識の量は増えている。
読めばああこれ前にも見たわ、と思う事は少なくない。
ただ、肝心の試験にはあまり対応できていなかった。
だからこういう立場になってるわけなんだが。
「こういうこと聞いていいのかわからないけど…何年も浪人してるのってつらくない?」
「そうだな…いい気分はしない」
「医学部のことなんてあたしはわからないけどさ…要は受験勉強ってのは変わらないんだよね?」
「ああ、やることはそれだけだよ。それがうまくいかないんだけどな」
やはりテキパキ動き回りながらも、彼女は耳の痛い話題に踏み込んできた。
ただ、それは両親のお説教よりもはるかに親身な気がした。
妙なものだ。間が空きすぎて、俺の現状を彼女はほとんど知らないはずなのに。
「そう…でも、素人考えだけどね、もうこだわらずにパッと済ませた方がいいんじゃない?参考書だって、1冊選んでやり切っちゃった方が早いと思うけど」
「…そう、かなあ」
「わかんないけどね。でも、これ以上時間を掛けるのって、あんたの場合はよくない気がする」
「…」
「お医者さんだったら、多分学校入ってからが本番じゃない?」
「…確かにな」
彼女の言葉は不思議なほどにすっと耳にしみこんだ。
彼女も職種は異なるけれど有資格者の社会人なわけで、ある意味では俺の大先輩なのだ。
「ま、あたしの意見だから。あんまり気にはしないでね」
「ああ、ありがと」
実際、ありがたかった。家族からの視線がきつい今、こんなに普通に話をしたのは久しぶりだったからだ。
受験の話という時点であまりいい気分ではなかったけれど、それでも気分が変わる。
ただ、ありがたさを感じる一方で、正直言って、俺はその話だけに集中できてはいなかった。
部屋の中で動き回る彼女の方を向くたび、気が散ってしまうのだ。
保育園で会ったときのような露出を控えたジーンズ姿だったらまだよかったのに、退勤後、園の外に出てきた彼女はわざわざ露出の多い服に着替えてきたのだ。
もっとも、こちらが私服だと言うから着替えること自体は当たり前だ。
だが、いかんせん、この服装はやり過ぎだ。俺の服装も大概なのはわかるが、彼女の服装は俺とは正反対の意味合いでものすごかった。
洒落てはいるけれど、着ていて自分で恥ずかしくないのかというような問いたくなるようなファッション。
一緒に歩いているだけでも目のやり場に困った。
ましてこの狭い部屋で掃除をしながらだと、目前でスカートがふわりと浮きあがったりして、俺には刺激が強すぎた。
エプロンで身体の前面は隠れているものの、後ろは隠しようがない。
だから、彼女の一挙一動に目が引き付けられてどうしようもなかった。
そのたびに、俺は自分を叱った。好意で来てくれている幼馴染に、なんてことを考えてんだ、俺は。
自分に言い聞かせているうちに、時間は過ぎ去っていった。
スポンサードリンク
最初だったのでそこそこ時間はかかったが、それでもものの2時間ほどで、俺の部屋はまるで別の部屋のような有様になっていた。
「ま、こんなもんでしょ」
手をパンパンとはたきながら、玲美は言った。
片や俺は、慣れない動きで疲れてしまって自分のベッドにドスンと腰を下ろしてしまった。
体力が違い過ぎて情けない。ゼイゼイと、あれた息がおさまらない。
それでもあまりの部屋の変わりっぷりには感嘆せざるを得なかった。
「すげえ…こんなに変わるもんかね」
「あんたが手を付けなかっただけでしょ。やればこんなもんよ」
「手間かけたな。ありがとう」
「どういたしまして。ちょっとは昔の借り、返せたかな?」
「借り?…ああ、あれか?子供んときの」
「そうそう」
「俺は割り込んだだけだしな…なんもしてないわけだし、返してもらうような借りでもないだろ」
「そう?あたしは割と恩にきてるんだけどね。でも、そうならこれでチャラでいい?」
「もちろん」
ニコリと笑った玲美の顔。笑顔だと、あの頃の面影が少しだけ強まる。
そう思って懐かしい気持ちになっていると、ふと彼女が苦笑いしていった。
「でも…ねえ。余計なお世話だとは思うけど」
部屋の隅に積み上げられたごみ袋の一つを横目でチラリと見やる。
その袋には、ティッシュが大量に詰まっていた。
「ヌキ過ぎじゃない?身体、大丈夫?」
「…身体は特に異常はない。けど、悪かったな…臭かっただろ」
掃除を始めるまで気が付かなかった俺も俺なのだけど、俺の性欲処理は当然自家発電だ。
それで整理もしないのだから、部屋には相当のにおいがたまっていた。
窓を開けて外気を入れたとき、逆にハッとなったくらいだ。
今は部屋中に消臭スプレーを撒いた甲斐あって、その匂いは一応消えてはいたけれど、彼女がどう思ったかは考えるまでもない。
掃除の間中それを嗅がせていたのだから、文句のひとつくらいは言われたって仕方ないだろう。
だが、玲美の返事は想定外のものだった。
「別にいいけどね。あたし、イカ臭いのは気にならないたちだし」
「…は?」
「むしろどっちかっていうと、好きかな。精子の匂いってオスっぽい感じがしてなんかゾクゾクするし」
「はあ…!?」
玲美がいかに派手になろうと、俺の中では彼女のイメージは、やはり小さい頃の、気弱な彼女のそれだ。
だからこんな言葉を聞くとは思ってもいなかったし、さらに言えば、瞬間的に玲美のあられもない姿を想像してしまった自分にも驚いた。
間の悪いことに、人付き合いの少なさから、俺は感情を隠すことに慣れていなかった。困惑が顔にありありとでていたのだろう。
玲美は、少し俺を正面から見た後、すこし寂しげな顔をした。
「…まあ、びっくりはするよね。でも、あたしも変わっちゃったから。幻滅した?」
「い、いや。…幻滅されるんなら、むしろ今は俺の方だろ」
「そうでもないと思うけどね。…でも、呆れられてないなら、よかったよ」
彼女が笑顔に戻ったのを見て、俺はホッとした。
それは、自分の股間に気づかれなかったことも込みでだ。
掃除の間中、彼女の姿に気を取られた上に、この会話だ。俺の調子はすっかり狂っていて、股間の制御も効かなくなっていた。
よりにもよって、再開したばかりの幼馴染に勃起するなんてありえない。いくら世間慣れしていない俺でも、それくらいはわかる。
だからこそ、俺はごまかしきれたと気を緩めたのだけれど、ホッとしたのはつかの間のことだった。
「…ねえ?」
なぜか声を潜めるように、玲美が声を掛けてきた。
妙に耳につく声だった。ほとんど聞こえるか聞こえないかくらいの大きさなのに、鼓膜にまとわりついてくる声。
さっきまでのあっけらかんとした彼女の声とは、明らかに違う。
俺は、なぜか返事が出来なかった。
「あれだけヌいてるってことはさ、…溜まってるんだよね?」
囁くように言いながら、玲美は俺の隣に腰かけた。
座った拍子に、着けたままのエプロンと、スカートがふわっと浮き上がった。
スカートはそのまま、彼女の腰の周りに広がる。短い裾の端っこが、俺の指の先に軽く覆いかぶさった。
「…どうなの?」
「…ま、まあ…溜まってる…かなあ」
「スケベだね、あんたも」
「…そうだな」
「…あたしとおんなじだね」
玲美がなぜ、こんな話を始めたのかわからない。
ただ、どんどん小さくなる声はどうしようもなく妖しい雰囲気で、俺は身じろぎさえできなかった。
スカートの下で、俺の指が何かツルツルしたものが触れている。
裏地だろうか。
「ねえ?…せっかく部屋も掃除したんだし…もう少し、掃除、続けない?」
「ん?」
「…お掃除してスッキリしたい場所、他にもあるんじゃないかなあ?」
「…」
「…もう…ハッキリ言わなきゃわかんない?」
わかっていた。いくら俺が経験が浅くても、ここまで言われたら次にどんな言葉が飛び出してくるかは想像がつく。
けれど、俺からその結論を確かめるのはためらわれた。第一、こんなことが実際に起こるとは、誰だって思わないだろう。
まさか、という気持ちだった。緊張もあって、俺はもう声さえ出せなかった。
そんな俺に、とうとうじれてしまったのだろう。彼女は自分から、決定的な一言を口にした。
「もしその気があるなら…相手、しよっか?」
予想だけしているのと実際に言われるのとでは、重みが違った。
落雷を直接くらったかのようなショックが、久しく刺激から遠ざかっていた俺の脳髄で弾けた。
スポンサードリンク
カテゴリ:エロ体験談その他(男性視点)