3日間だけの入院ではあったけれど、杏さんとはかなり打ち解けた。
コミュ障を自認していた僕には、極めて珍しいことだったが、それは彼女の人徳だろう。
彼女は気を使ってくれているのか、時間が空くと僕の病室にきて色々話に乗ってくれたのだ。
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本音を言わないとわざわざ宣言するだけあって、彼女は僕の内面にズカズカ踏み込んでくるようなことはしなかった。
むしろ、かなりの距離感を感じたくらいだ。
けれど、それが僕には心地よかったし、新鮮だった。
こういう付き合い方もあったんだなと、改めて知った気がした。
もっとも、その一方で彼女の無茶苦茶さも知ることになった。
最初の夜で何となく予想はついていたが、彼女は下ネタがやたらに多かった。
ことあるごとに、「今日は溜まってない?」だの、「なんだったら舐めたげようか?」だのと口走るのだ。
もちろん、本人もすぐ嘘だといってごまかしていたし、僕だって本気にしてはいなかった。
だが、どうも冗談ではないということはすぐにわかった。
2日目の夕方、彼女が出て言った直後に、廊下から見知らぬ患者がいきなりぬっと顔をだした。
「おお、兄ちゃんもあの娘と仲良くなったのかい?」
「は、はあ…」
みたところ気はよさそうな人だったが、なんというか…いかにも脂ぎった好色親父という感じだった。
それに、普通は面識もない別室の患者に話しかけてきたりしないだろう。
困惑していると、彼はニヤニヤ笑いながら言った。
「良い娘だぜえ、あの娘。仲良くしときなぁ」
「はあ」
「ありゃ相当の好き物だよなあ、兄ちゃんもたまらんだろお」
「…?何のことですか…?」
「ん?…ひょっとして兄ちゃん、まだしゃぶってもらってねえのか?」
「え…?」
「この病棟が長え連中はみんな知ってるぜ?まあ、兄ちゃんもそのうち機会あるだろうから焦らないこった。がはは…」
下品に大笑いしながら、彼は去っていった。
唖然としながら、僕は今聞いた内容を反芻していた。
じゃあ、杏さんのあの言葉は…
こじらせた僕だけに、この話だけで拒否反応を示してもまったくおかしくなかった。
けれど、自分でも意外なことに、杏さんに限ってそんな気分にはならなかった。
それよりは、彼女ともう少し色々話したいという気持ちの方が強かったのだ。
僕は杏さんには何も言わず、その後やってきた彼女とまた世間話をした。
彼女はやはり下ネタを織り交ぜながら話をしていたけれど、僕にはその会話は楽しかった。
そして3日目。
これで彼女ともお別れかと少し寂しい気分になっていると、彼女は相変わらず屈託なく聞いてきた。
「あのさ、よかったら連絡先教えてくれない?わたしも教えるからさ」
「え?またなんで…」
「あ、嫌だったらいいんだけど、せっかく仲良くなったんだし、どうかなって思って」
僕としては願ったりかなったりだった。
ただ、就業規則とか大丈夫なんだろうかこの人は、とは思ったが。
何はともあれ、こうして僕はスマホに杏さんの番号を登録して退院することになったのだ。
僕にしてみれば、家族をのぞけば女性の番号を登録したのははじめてのことだった。
入院中に杏さんと散々話したせいか、気分は以前ほど暗鬱としたものではなくなっていた。
とはいえ、置かれた環境が変わるわけじゃない。
僕はまた元の生活に戻った。
一旦ドロップアウトしてしまった身では、やることがない。
いや、やるべきことはいくらでもあったが、やる気がしないのは以前と変わらなかった。
ただ、再び気分が落ち込むことはなかった。
落ち込む暇がなかったといった方がいい。
大して日もたたないうちに、杏さんから連絡があったのだ。
それからは、引きこもっていた数年間が嘘のように忙しい日々になった。
杏さんは僕を、バーベキューやら得体のしれない集まりやら、いろんなイベントに連れまわしはじめたのだ。
最初はわけがわからず戸惑ったが、連れまわされているうちにどうでもよくなってきた。
彼女のテンションに慣れてしまったのも大きかったと思う。
杏さんのフランクさは、病院外でも相当なものだった。
僕はイベントなんて全く慣れていなかったが、彼女は僕を連れてどんどん見知らぬ人たちに切り込んでいく。
それで、いつの間にか打ち解けてしまうのだ。
話への巻き込み方も絶妙で、いつの間にやら僕は、つっかえつっかえではあったが、いろんな人と雑談できる程度にはなってきた。
それは、決して悪い気分ではなかった。
灰色だった高校時代をまとめて取り戻しているような気分にさえなった。
一方で、杏さんの奔放さも実際に体験することになった。
健全な行事ではさすがにやらなかったが、怪しげな集まりとなると彼女は本能むき出しだった。
「わたしさぁ、君のおちん●ん、好きなんだよね」
大勢の裸の男女に目を白黒させる僕に、彼女はあやしくささやいて、股間に手を伸ばしてきたものだ。
まさに小悪魔だった。
本番こそしなかったものの、僕は生まれて初めて、女性の手で射精した。
彼女の手はほんのりあたたかくて、僕は抵抗さえできなかった。
一瞬、僕に惚れたかとうぬぼれたくらいだった。
女性経験のない僕にとって、彼女の行動は勘違いをさせるに十分なものだった。
ただ、それが間違いであることに、僕はすぐに気づいた。
実際問題、この手のイベントでは、彼女は僕以外にもいろんな男に堂々と手を出していたからだ。
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この感じだと、あの病棟で出会ったスケベ親父のセリフも、恐らく真実だったのだろう。
行動だけ見れば痴女そのもので、一般的に考えたら嫌悪感を覚えても不思議がないほどだった。
にもかかわらず、僕はやはり杏さんを嫌いになることはなかった。
奔放な行動の反面、彼女がどれだけ気をつかっているのかは、傍目からみても明らかだったからだ。
やはり本音を見せずに対応する彼女は、どんな場でも気持ちのいい存在だったようで、周囲の誰からも好感をもたれていた。
決して一線を越えてこない距離感を彼女は自分に課していて、誰に対してもその態度を徹底していた。
それは彼女にとって、暗黙のルールともいうべき域にまで達していたように思う。
自分に余裕が出てくるにつれ、僕は彼女が心配になることさえあった。
いくら主義だからと言っても、彼女のルールは本人にはつらいのではないかと思えたのだ。
自分の本心を一切明かせないというのは、どう考えてもキツいだろう。
さすがに疲れないのかと聞いたことがあるが、彼女は笑って答えた。
「そうでもないよ?前にも言ったけど、私にとっては本音で喋ってモメる方がよっぽどきついのよ」
その時僕らは、あからさまにあやしいバーのカウンターに座っていた。
バーと言っても、少し離れた場所では真っ裸の男女が身体を絡ませている。
どうみてもまともな店ではない。
一人では、まず来ることのなかった場所だ。
酒に加えて雰囲気にもやられていた僕は、ふとこの話をもう少し詳しく聞いてみたくなった。
「でも、本音のぶつかり合いとかって大事って言いますよね」
「うーん、まあ時と場合によるだろうけど…わたしはやっぱり好きになれないな。性格だろうね」
「そうなんですか?」
「うん。やっぱり人間だからドロドロした部分あるじゃない。本音って、上手くやらないとそういう部分が出ちゃうでしょ?」
「まあ、そうですね」
「その辺のうまい下手ってもう素質って気もするしね。それに、ぶつかり合いって言っても、ちょっと間違えたらただ責めあうだけになっちゃうじゃん?それって見苦しくない?」
「そうかもしれませんけど…」
「あ、もちろんわたしはそう思うってだけだよ?わたしも本音を言っちゃうとうまくいかないタイプだからね…」
彼女は一瞬苦笑したが、すぐに元の顔に戻って話を強引に締めた。
「ま、これくらいが、私が言える最大級の本音かな」
「まあ、杏さんがきつくないっていうならいいんですけど…」
「心配しなくても大丈夫だって。まあ、難しい話はこれくらいにしてさ、とりあえずおちん●ん出してよ」
煙に巻かれた気もするが、とりあえず納得はいった。
良しとする価値観そのものの問題だから、これ以上言っても意味がない。
それでも、すこし彼女が不憫な気もした。
両親は僕の変化をもろ手をあげて喜んだ。
これまでろくに部屋から動かなかった息子がいきなり外出し始めたのだ。
行き先を知ったら卒倒ものだが、そんなことは言うわけもなかったから、彼らは無邪気なものだった。
もちろん、先の見通しが立っていないことは不安だったろうが。
杏さんに連れまわされているうちにテンションが上がったせいだろうか。
僕は、今さらながらそうしたことにも気が行くようになってきた。
そうなると、思うところはあった。
そろそろ、何かしなければという気になってきたのだ。
選択肢は色々あったのだろうけど、僕は結局、名目として名乗っていた浪人生を本気でやってみることにした。
とにかく進学しようと考えたのだ。
就職も考えたけれど、元々理系が好きだったこともあって、やってみたいことが出てきていたからだ。
もちろん、受かるかどうかはまったくわからなかった。
もう夏場になっていたし、今からやって今年中に間に合うかは怪しいものだった。
けれど、こんな心境になれたのは本当に久しぶりだ。
間違いなく杏さんのおかげだった。
受験を決心したその日、僕は彼女が好きだというアロマの香料をセットで購入した。
次に会ったときに、お礼を言おうと思ったのだ。
どうせ彼女のことだ、1週間もすればまた連絡してくるだろう。
ただ、そう思っていた矢先に、杏さんとの関係はいきなり途切れることになった。
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