その年、年末の大みそかも俺は帰省していませんでした。
実家の都合で、その年はバタバタしていて、帰省せずに年を越すことになったんです。
雪がちらつきはじめていました。猛烈な寒さでしたが、俺は防寒着をしっかりと着こんで、急ぎ足でいつものようにその銭湯に向かいました。
確か、閉店時間も普段より早いはずです。
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「こんにちは、まだ大丈夫ですか?」
「ええ。ごゆっくり」
「よかった。でも寒いですねえ」
「ほんとに。慌てないでいいから、ゆっくりあったまってってくださいね…あなたの場合はほかの楽しみもあるんでしょうけど」
「はは…でも、今年もお世話になりました」
「こちらこそ。来年もよろしくお願いしますね」
この頃には、俺と娘さんは、世間話くらいは普通に交わすようになっていました。
流れではありましたが、彼女の下の名前を教えてもらえる程度には親しくなれていたんです。
名前で呼ぶ機会はそうそうありませんでしたが、朱里さんという名前でした。
恋人でもないのに、俺の露出癖を知ったうえで親しくしてくれる女の子なんて、そうそういるもんじゃありません。
ニッコリと笑って迎えてくれる朱里さんの笑顔は地味ではありましたがとてもかわいらしく、俺は彼女への露出とは別に、その顔を見るのが楽しみの一つになっていました。
だから、恋人はしばらくいないままでしたが、俺は割と女性関係への不満は感じていませんでした。
本当にめずらしいですよ、こんな関係。
更衣室には誰もいませんでした。
大みそかだからもう少し人がいるかとおもっていたんですが、奥の湯舟にわずかに一人二人ほど、人影が見えるだけです。
雪が降るのは昨日から天気予報でわかっていましたから、常連の人たちも早めに来てしまったのかもしれません。
そんなにゆっくりしたつもりもありませんでしたが、俺が風呂から上がったときには、他の客はもう帰ってしまって誰もいませんでした。
俺の後には、誰もやってこなかったんです。
「あ、上がりました?」
番台から声がしました。
「あ、すいません。もう閉めますよね、急いで着ますから」
時計をみたら、閉店時間はもう過ぎていました。
割と図々しい方だと思いますが、それでもこの状況でゆったり股間を見せつけるほど神経は太くありません。
年が明けた後、何回でも見せる機会はあるんですから。
ですが、番台から返ってきた返事は意外なものでした。
「あ、ゆっくりしてていいですよ」
「え?」
閉店後なんてさっさと帰ってほしいところでしょう。
ですが、朱里さんは服に手を掛けたまま丸裸の俺を真正面から見て言いました。
「今日はあたしも時間余ってるんです。テレビでも見てていいですよ、そのまま」
俺は、身体だけを拭いて、わけのわからないまま椅子に腰かけました。
まだそんなに遅い時間ではありませんでしたが、テレビは既に年末特番が始まっています。
あまり大晦日という感じのしない内容でしたが、それでも普段とは何となく雰囲気が違いました。
みているこちらの気分もあるんでしょうけど。
がちゃがちゃと、扉を閉める音が戸口から聞こえました。
見ると、朱里さんが鍵をかけているようです。
俺がまだいるのになあ。でも、今更客に入ってこられても困るだろうし、当然か。
多分、俺が帰るときに改めて開けてくれるつもりなんでしょう。
そう思っていると、朱里さんが直接更衣室に入ってきました。
銭湯という商売柄か、動きやすいラフな格好が常な彼女でしたが、今日は割とおしゃれな服装でした。
シンプルなデザインなのは変わりませんが、趣味はよく、スカートまで履いています。
年末だから…というわけでもないでしょう。第一、身体を動かす仕事には、まったく不向きな格好です。
ただ、朱里さんが話しかけてきたことで、俺の思考は中断されました。
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「ふう、今年最後のお風呂はどうでした?」
「いい気分でしたよ。やっぱ銭湯っていいですね」
「そういう人が増えると嬉しいんですけどね。やっぱり、銭湯ってお客さん少なくて」
「そうですか?この銭湯、割と客入りよくありません?」
「そうでもないんですよね。今年もこの辺の風呂なしアパート、かなり取り壊されちゃったじゃないですか」
「ああ、そうですね」
銭湯周辺は、もともと風呂なしアパートの密集地帯でしたが、それでもその頃になってかなり建て替えが盛んになっていました。
どうも火災防止とかで、役所も古いアパートの建て替えを推進しているらしく、俺もそのお知らせを見たことがあります。
「最近の流れっていったら仕方ないんですけど。やっぱり徐々に減ってますよ。うちはまだ他のお店に比べたらマシな方ですけど」
「そうですか…」
「お客さんがいる時はいいんですけどね。ガラーンとしちゃうタイミングだと、ちょっと寂しい気持ちにはなりますね。やっぱり家業なので」
「でしょうね。俺も思い入れあるからなあ。頑張ってほしいんですけど」
「うふふ、ありがとうございます。学生さんでしたよね?」
「ええ」
「卒業はいつっていってましたっけ、あと1年…?
「ええ。就活挟むんで、どうなるかわかんないですけど」
「それだったら、来年1年くらいはなんとかなりますよ。あたしも、仕事場がそう簡単につぶれてしまうと困るし」
「そりゃそうですね。ホント、来年もお世話になります」
「こちらこそ。どんどん来てくださいね」
話としては重めの話なんですが、朱里さんの表情はにこやかでした。
多分、本当に雑談のつもりなんでしょう。
「朱里さんは今日はもう家に帰って年越しですか?」
「いえいえ、まだ掃除がありますから」
「え、一人でですか?」
「ええ。普段は家族も手伝ってくれるんですけど、今日は取り込み中で」
「それ、大変じゃないですか?もちろん女湯もでしょう?」
「そうですけど、うち、設備も少ないし、掃除も楽なんです。他店さんもせいぜい2人くらいらしいし、時間さえかければ一人でもなんとか」
「はあ…でもそれ、やっぱり大変でしょう。よかったら手伝いましょうか?」
「まさか。お客さんに手伝ってもらうわけにはいかないですよ」
「いえいえ。俺、清掃バイトの経験はあるんで、体力はありますよ。なんか特別な洗い方するところは無理だと思いますけど」
「ええっ、悪いですよ…もしばれたら怒られちゃいますし。でも、嬉しいです」
「そうですか…」
「お気持ちだけありがたくいただきますよ」
大変だなあ。そう思いながらも、俺はふと疑問に思いました。
俺としても、彼女と雑談するのは楽しかったので、それはいいんです。
ただ、そんな掃除があるなら、なんでまた俺をゆっくりさせているんでしょう。
年末だし、一刻もはやく家に帰りたいもんじゃないんでしょうか。
それに、疑問はもう一つありました。
「あの、ところで…俺、素っ裸なんですけど、いいんですかね」
「いいですよ?見せるの、好きなんでしょ?」
最近はすっかり慣れてきたとはいえ、それでも根はかなり恥ずかしがり屋な朱里さんです。
現にその時も、目線はそらさないものの、かなり顔は赤くなっていました。
それなのに、今日は素っ裸の俺のすぐそばにまで近づいてきています。
普段は番台からみるだけでもああなのに。
これまで自分から散々見せつけておきながら、俺は落ち着かない気分でした。
「あの…今日、どうかしたんですか?」
「どうもしませんよ?強いて言えば…普段、他のお客さん気にして、あんまり見せないでしょ?」
「はあ、まあ、そうですけど」
「たまには、ゆっくりみせたいんじゃないですか?今ならいいですよ?」
「は…はあ?」
いきなり、朱里さんは俺の隣に腰かけました。
もちろん朱里さんの方は服は着ていますが、裸の俺の隣にです。
座った拍子に黒い髪がふわっと揺れて、俺の肌に直接触れました。
香水、でしょうか。なんだかふんわりとした爽やかな香りが、すぐそばから漂ってきます。
彼女らしいな、と思いました。それどころではありませんでしたが。
「なんだったら、…もっと近くで見てあげましょうか?」
丁寧な口調は相変わらずでしたが、その少し小さくなった朱里さんの声に、俺は思わずぶるっと身震いせずにはいられませんでした。
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カテゴリ:エロ体験談その他(男性視点)